トルコにおいて農業は現在においてもGDPの約15%、全就業者の約40%を占める主要産業である。GDPと就業者割合からのアンバランスからも読み取れるように、「貧しい農村」という言葉は現金収入という観点からすれば、トルコにおいては現在でも基本的には間違った見方ではない。
トルコは建国以来、もともと広大な耕地面積を持つうえ、戦略物資である食糧の確保は国家の独立の維持に不可欠との観点から、一部嗜好品を除き食糧の完全自給を行ってきた。しかし急激な人口増加と、一部農地の荒廃により、ついに食料の輸入額が輸出額を上回る輸入超過の状態に陥った。
トルコ農業の大きな問題は、オスマン帝国以来連綿と続く農地の大地主制である。初代大統領ケマル・アタテュルクは農地改革に本格的に取り組まないうちにその改革の途中で死去したこともあり、大地主制は現在も存在している。これらはとくに農地改革がまったく手付かずだった東部に多いが、アタチュルクが存命中に行った西部での農地改革も実際にはかなりの抜け穴が存在し、そのため大地主は程度の差はあるがほぼトルコ全国に存在する。また、トルコ政府の行った遊牧民(ユルック)の定住化政策も、部族長を地主、部族民を小作人とする新たな地主制の発生を招いた。
ただし、大地主の所有する大農場においては、大掛かりな投資と適切な人員配置が行われるため、経済効率の面からみればかえって効率的な農業を行うことができることに注意する必要がある。実際、大農場においては、ヨーロッパ製大型農業機器の導入や、機械化された農薬・肥料の散布・散水、人手が必要な農作業でのバスを使った人員の大量輸送など、効率的な農業を行っていいる。そのため、単純に小作人は貧困ということはできず、農場によっては、農民というよりもむしろ大企業の社員というべき者も多い。
むしろ経済困難に直面しているのは農地の所有形態にかかわりなく小規模農家であり、これらは、大規模農場から出荷される低価格農産物による農産物価格の下落もあり、1990年代後半以降購買力平価ベースでは実質所得の下落が続いている。参考までに2004年現在の主要農産物の露天バザールでの販売価格はトマト・ジャガイモ・タマネギともおおむね1キロあたり25万トルコリラ程度である。これはトルコの物価においておおむねチャイ(紅茶)1杯、シミット(小さなパン)1個に相当するものでしかなく、小規模農家の生活は大変苦しいといわざるを得ない。
政府も、農村の現状は認識しており、直接の所得補助を行うなどしているが、トルコにおいては財政が事実上IMFの統制化にある危機的な状況を脱していないこともあり、補助額は不十分な上、そもそもその補助自体も一部が滞っている状態である。
これらの問題は、一時期盛んだった西ドイツ(当時)への移民、大都市部への出稼ぎや移住などをもたらす結果となり、一部農地の荒廃の原因となっている。国外への移民流出がやや抑えこまれた現在でも大都市部への人口流入は続いており、流入者がつくりだしたゲジェコンドゥ地区と呼ばれる下町の存在は都市の社会問題をも招いている。